医学部を卒業するだけでは医者にはなれない。医師国家試験に合格して初めて研修医になれる。落ちた人は悲惨な一年間を過ごすことになる。落第ヘルパー医師国家試験の発表は3月の下旬に行われる。平成22年は特に遅く、3月29日が合格発表日だった。2月の国家試験で楽勝との感触を得た主人公(僕)は4月1日から研修医として働くことが決まっている病院で、3月から勉強方々看護助手のバイトをさせてもらうことになった。名目上の雇用形態は看護助手だったが、研修医に準じる扱いをされ、立派な借り上げマンションに住み、白衣を着て様々なカンファレンスに出席しながら勉強をするという優雅な社会人生活が始まった。病院の実態はそれまでの想像とは少し違っていた。病院の従業員のうち医師の占める比率は1割強程度でその4割が女医だった。看護師は従業員の6割、その下にヘルパーが居る、圧倒的な女性社会だった。医師、正看護師、准看護師、ヘルパーという厳格なヒエラルキーの中で、主人公は雇用形態はヘルパー、扱いは研修医に準じるという微妙な立場に置かれ、得難い経験をすることになるのだった。3月29日の午後2時、99.9%合格だとは分かっていたが、僕は念のために厚生労働省のウェブサイトで医師国家試験合格者の受験番号が掲示されたページを探してクリックした。そして僕の怒涛の日々が始まったのだった。