この『これで読破!枕草子』は、国文学者・萩谷朴(はぎたに ぼく1917~2009)の監修による三巻本を使った全訳で、作家・泰恒平(1935~)の解説と翻訳を数箇所に含んだ完訳本である。「をかしの文学」と呼ばれる感性豊かな『枕草子』を現代語訳にすることそのものに異議を唱える人も多いことは重々承知の上で、それでも何とか現代人にその感覚を伝えたいという思いに駆られて、やっと刊行の運びとなった。上と下に分けたのは、新潮日本古典集成の萩谷の校注に従ったためである。第百三十六段までを上とし、それ以後を下として、二巻本で発行する。
泰恒平の分類によれば、『枕草子』には、三種類の内容が混じっている。「春はあけぼの」「降るものは雪」「風は」「虫は」という類想的な集団と、四季自然の随想や感想の集団、三つ目は清少納言の日記、回想の集団で、この三つが前後入り乱れて書かれている。規則性がないので、抄段の番号が書かれた順序通りだとは言えない。始めは「春はあけぼの」に代表される類想「枕ごと」を集めたものであったらしい。それが徐々に清少納言なりの見聞と観察が加えられて、最終的には日記と回想が加わった。
清少納言は、一条天皇の中宮・定子(=977~1001)に仕えていた。定子は、清少納言によれば、完璧な教養と人格を備えた理想の女性であった。貞元二年の生まれなので、清少納言よりも十歳以上年若いが、清少納言ほどの者が、この定子には全人格的な敬意を払っていた。それが『枕草子』全体からは良く察せられる。
『これで読破! 枕草子』は、三石由起子の「これで読破!」シリーズである。翻訳は、初めて古典を読む大人の鑑賞にも堪えうるものと自負している。また、高校生や受験生が参考書がわりに使っても、間違いのないものである。